寺田寅彦と夏のぜんざい

2025.07.31

愛煙家の甘党

寺田寅彦(てらだとらひこ・18781935)は、高知県出身の物理学者、随筆家です。金平糖の角がどうしてできるか、というテーマについて複数の作品の中で言及していたことを以前ご紹介しました。
寅彦は大の甘党で、家で作った甘い小豆餡のおはぎに、さらに白砂糖をどっさりかけて食べていたとのこと。子どもたちによれば、「甘いものとたばこを禁じられるくらいなら死んだほうがましだ」といつも言っていたそうです。 

熱い食べ物で涼しいもの

昭和8年(1933)8月に発表した随筆「涼味数題」のテーマは「過去の記憶の中から涼しさの標本を拾い出そう」というものでした。涼しさは一瞬の感覚であり、暑さや寒さに比べて記憶が希薄なように思われるとしながらも、学生時代、友人と炎天下で小舟を漕いで遊んだ後に食べた冷奴が「涼しさのかたまり」のように思われたことなど、共感を呼ぶエピソードが語られています。

その中でも特に注目したいのが、熱いぜんざいの記憶です。これは彼が小学生の頃、夏の夜に母に連れられて行った南磧(みなみがわら)※の納涼場で食べたものだといいます。
熱いものを食べて涼しく感じた、とはなんとも不思議ですが、寅彦は、この「熱い田舎ぜんざいの水っぽい甘さ」の「涼味」には「母の
慈愛が加味されていたよう」だと綴っています。当時、父親が仕事のため長く家を空けていたため、母と祖母と3人で暮らしていた寅彦。そんな日々のなかで、母がひと夏に12回連れて行ってくれる「天井は星の降る夜空」の納涼場はことさら楽しみな場所だったことでしょう。

夏の夜風の涼しさや、川のせせらぎなどを感じながら母と過ごす特別な時間が、「熱いぜんざい」も含めて、彼の晩年まで記憶に残る「涼味」として心に刻まれたのかもしれませんね。

※高知県にある鏡川の河畔と思われるが、詳しい場所は不明。

*連載「歴史上の人物と和菓子」を元にした書籍 『和菓子を愛した人たち』(山川出版社、2017)が刊行されております。そちらも是非ご一読くださいませ。

参考文献
「涼味数題」青空文庫より
寺田東一他著・太田文平編『父・寺田寅彦』くもん出版 1992

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